はじめに:本店移転登記を怠ると“罰則”のリスクも
会社が事務所を引っ越した場合、単に荷物を運ぶだけで終わりではありません。
本店の所在地を変更したら、必ず「登記簿上の住所」も変更する必要があります。
これが「本店移転登記(法人の住所変更登記)」です。
登記の変更を怠ると、税務署・年金事務所・銀行・取引先などで法人情報が一致せず、さまざまなトラブルを招くおそれがあります。
また、会社法第915条により、本店移転後2週間以内に登記をしなければならないと定められており、違反した場合は代表者個人に最大100万円の過料が科される可能性もあります。
この記事では、
- 本店移転登記の基本的な流れ
- 必要書類と登録免許税
- 税務署・年金事務所など各所への届出
までを網羅的に解説します。
本店移転登記とは?
本店移転登記とは、法人の本店所在地を変更したときに、登記簿上の住所を正式に書き換える手続きのことです。
法人登記簿に記載されている住所が会社の「法的所在地」となるため、実際に事務所を移転した後も、登記を変更しない限り、法律上の住所は変わりません。
管轄による2つのケース
- 同一法務局管轄内での移転
→ 登録免許税は3万円。手続きは比較的シンプルです。 - 異なる法務局管轄への移転
→ 登録免許税は合計6万円。旧管轄法務局で「転出登記」、新管轄法務局で「転入登記」を行います。
本店移転登記の期限と罰則
会社法第915条第1項では次のように定められています。
「会社において登記事項に変更が生じたときは、2週間以内にその本店の所在地において変更の登記をしなければならない。」
つまり、本店移転日から2週間以内に登記申請を行うことが義務です。
期限を過ぎると「登記懈怠」として扱われ、**代表者に過料(最大100万円)**が科されることがあります。
また、登記を放置すると、融資や契約更新などの際に「登記簿上の住所が古い」と判断され、審査保留や契約拒否につながることもあります。
移転が決まったら、速やかに登記を行うことが会社の信用維持に直結します。
本店移転登記が必要な理由
① 登記簿謄本の提出が求められる
税務署・社会保険事務所・銀行など、多くの手続きで「登記簿謄本(履歴事項全部証明書)」の提出が必要です。
住所変更登記を済ませていないと、この書類が取得できず、各種届出が進められません。
② 各種行政手続きの前提になる
登記を終えていないと、以下の手続きが止まります。
- 税務署への「異動届出書」提出
- 年金事務所への「所在地変更届」
- 労働保険・雇用保険の事業所変更
- 銀行口座の住所変更
- 官公庁への補助金・助成金申請
③ 手続きを効率化できる
登記を早めに済ませておくことで、税務・労務関係の届出がスムーズに進みます。
遅れると登記簿謄本の発行もできず、結果として事務作業全体が滞ります。
本店移転登記に必要な書類
同一管轄内の場合(登録免許税3万円)
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 本店移転登記申請書 | 新住所・移転日などを記載 |
| 株主総会議事録 | 本店移転を決議した内容を記録 |
| 株主出席者リスト | 株主総会に出席した株主一覧 |
| 取締役会議事録 | 取締役会での承認事項を記録 |
管轄外への移転(登録免許税6万円)
上記に加え、以下の書類が必要になります。
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 本店移転登記申請書(旧・新両方) | 転出・転入の2通を作成 |
| 印鑑届書 | 新管轄の法務局に法人印を登録するための書類 |
登記申請の3つの方法
① オンライン申請
- メリット:法務局に行かずに手続き可能。ネットバンキングで納税可。
- デメリット:電子署名登録やソフトのインストールが必要。
流れ
- 登記・供託オンライン申請システムに登録
- 申請用総合ソフトに入力
- 電子署名を付与
- 申請データを送信・税納付
オンラインで完結できるため、全国対応企業やリモートワーク企業に適しています。
② 法務局窓口申請
- メリット:担当者に直接質問でき、その場で修正可能。
- デメリット:移動や待ち時間が発生。
流れ
- 必要書類を準備
- 登録免許税分の収入印紙を購入し、申請書に貼付
- 旧所在地の法務局に提出
登記内容を確実に処理したい場合や、初めて申請する法人に向いています。
③ 郵送申請
- メリット:法務局へ行く必要なし。地方企業でも対応可能。
- デメリット:郵送に時間がかかり、期限ギリギリだとリスク大。
ポイント
- 封筒に「登記申請書在中」と明記。
- 書留やレターパックで送付。
- 不備があると差し戻しになるため、添付書類を入念に確認。
本店移転後に必要な各種届出
登記が完了しても、会社の所在地変更手続きは終わりではありません。
各官公庁への届け出を漏れなく行うことが重要です。
① 税務署(国税)
- 提出書類:「異動届出書」「給与支払事務所の開設・移転・廃止届」
- 提出期限:移転後1ヶ月以内
法人税・消費税の申告先変更のために必須です。
② 年金事務所(社会保険)
- 提出書類:「健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地変更届」
- 提出期限:移転後5日以内
社会保険の管轄変更に関わる重要な届出で、期限が非常に短い点に注意。
③ 労働基準監督署・ハローワーク(労働・雇用保険)
- 提出書類:「労働保険名称・所在地等変更届」「雇用保険事業所変更届」
- 提出期限:移転後10日以内
従業員を雇用している法人は必ず提出する必要があります。
④ 都道府県税事務所・市区町村役場(地方税)
- 提出書類:「法人異動届」「事業所異動届」など
- 提出期限:移転後概ね1ヶ月以内
都道府県をまたぐ移転の場合は旧・新両方の自治体へ届出が必要です。
⑤ 郵便局・銀行・取引先
- 郵便局:転送届を提出して旧住所宛の郵便物を転送。
- 銀行:法人口座の住所変更(登記簿謄本提出が必要)。
- 取引先:請求書・契約書等の住所更新。
本店移転登記にかかる費用の目安
| 区分 | 登録免許税 | その他の費用 |
|---|---|---|
| 同一法務局管轄内 | 3万円 | 定款変更の認証不要 |
| 管轄外(別法務局) | 6万円 | 定款変更を伴う場合は議事録作成・印鑑届追加 |
司法書士に依頼する場合は、報酬3~5万円程度が一般的です。
ただし、自社でオンライン申請を行えば、登録免許税のみで済みます。
よくあるトラブルと対処法
登記申請期限を過ぎてしまった
やむを得ず2週間を過ぎた場合でも、できるだけ早く申請すれば過料は軽減される可能性があります。
ただし、放置期間が長いと、審査で不利益を被ることがあります。
株主総会議事録の日付ミス
本店移転日と議事録の日付が一致しないケースが多発しています。
定款変更を伴う場合は「株主総会決議日」、取締役会のみの場合は「取締役会決議日」が本店移転日になります。
管轄の誤り
県境をまたぐ場合、意外と多いのが「どちらの法務局が管轄か不明」というトラブル。
法務局公式サイトの「管轄一覧」で必ず確認しましょう。
まとめ:移転後はまず登記、次に各種届出を
法人の本店移転は、単なる住所変更ではなく、会社の法的な所在地を動かす重大な手続きです。
2週間以内の登記を怠ると過料のリスクがあるうえ、登記簿謄本が発行されなければ、税務・労務・銀行手続きのすべてが止まります。
本店移転が決まったら次の順番で進めましょう。
- 株主総会・取締役会で移転を決議
- 登記書類を準備し、法務局へ申請(2週間以内)
- 登記完了後に登記簿謄本を取得
- 税務署・年金事務所・自治体などに届出
- 銀行・取引先・郵便局で情報更新
手続きが完了すれば、法人情報が正式に新住所へ統一され、
取引先からの信用維持・行政対応の円滑化につながります。
経営に集中するためにも、登記関連の手続きは計画的に進めましょう。







