従業員50人以下の会社も注意!社会保険の加入義務拡大と実務対応ポイント

はじめに

これまで「従業員が50人以下だから社会保険の加入義務は関係ない」と考えていた企業も、いよいよ対応を迫られる時代が到来します。
2024年の法改正以降、社会保険の適用範囲は段階的に拡大しており、中小・零細企業であっても加入義務が生じる可能性が高まっているのです。

とくにパート・アルバイトなどの短時間労働者を多く雇う企業では、今後の制度改正によって実質的な負担が増える見込みです。
本記事では、社会保険の加入条件と今後の拡大スケジュール、そして中小企業が取るべき実務対応についてわかりやすく解説します。


社会保険の現行加入条件


現在の基本ルール

現行の厚生年金・健康保険制度では、短時間労働者(いわゆるパート・アルバイト)であっても、次の4つの要件をすべて満たす場合に加入義務が発生します。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 月額賃金が8.8万円以上(年収約106万円)
  3. 雇用期間が2か月を超える見込みがある
  4. 学生でない

ただし、この要件に加え、**勤務先の従業員数が「51人以上」**であることが条件とされてきました。
そのため、これまで50人以下の企業は「特定適用事業所」ではなく、社会保険加入義務の対象外となっていたのです。


【法改正】50人以下の企業も社会保険の対象へ


企業規模要件の撤廃が進行中

2024年10月の改正により、社会保険の加入義務を判断する「企業規模要件(従業員51人以上)」が段階的に撤廃されることになりました。
最終的には、すべての企業が規模に関係なく社会保険の対象となる予定です。

厚生労働省が示すスケジュールは以下の通りです。

適用開始時期対象企業の従業員数概要
令和9年(2027年)10月~令和11年(2029年)9月36人以上中堅規模の事業所が新たに対象に
令和11年(2029年)10月~令和14年(2032年)9月21人以上小規模事業所の大半が対象に
令和14年(2032年)10月~令和17年(2035年)9月11人以上さらに適用範囲が拡大
令和17年(2035年)10月以降制限なしすべての企業が対象(完全義務化)

つまり、2035年以降は従業員10人以下の企業も社会保険の加入義務を負うことになります。
このスケジュールは長期的に見えますが、制度対応の準備には時間を要するため、早めの対策が求められます。


社会保険加入の判断基準


週20時間以上の勤務

最も重要な判断基準は「週20時間以上の勤務かどうか」です。
ここでの労働時間は「実働時間」ではなく、雇用契約書上の所定労働時間で判断します。
繁忙期の一時的な超過は対象外ですが、契約上20時間以上であれば加入対象となります。


月額賃金が8.8万円以上

時給や日給制の従業員であっても、月換算した賃金が8.8万円を超える場合は加入対象です。
なお、以下の手当は賃金に含まれません。

  • 通勤手当・家族手当
  • 賞与・臨時手当
  • 時間外手当

賃金構成の見直しによって、意図せず加入義務が発生するケースもあるため、給与体系の確認が重要です。


雇用期間が2か月を超える見込み

形式上は2か月契約であっても、更新を前提とする場合や過去の更新実績がある場合には、
実質的に長期雇用とみなされるため、加入義務が生じることがあります。
人手不足対策で短期契約を繰り返すケースでは特に注意が必要です。


学生は原則対象外

在学中の学生は原則として社会保険の加入対象外ですが、
次のケースでは例外的に加入が必要となります。

  • 夜間部に通う学生
  • 休学中の学生
  • 卒業後も勤務を継続する見込みがある学生

今後の社会保険加入拡大で企業が受ける影響


1. 社会保険料負担の増加

社会保険料は企業と従業員が折半で負担します。
対象者が増えることで、企業側のコスト負担は確実に上昇します。
特に人件費比率の高いサービス業や小売業では、利益率への影響が大きくなることが予想されます。


2. 労務・経理業務の複雑化

従業員50人以下の企業では、経理・人事を兼任しているケースが多く、
社会保険関連の手続き(資格取得・喪失・月額変更届など)が一気に増えることになります。
手作業での処理はミスや遅延のリスクが高く、労務管理システムの導入や**外部委託(社労士活用)**が有効です。


3. 契約内容の見直しが必要

労働時間や賃金水準を再設定し、社会保険加入者を明確に区分することが求められます。
特に、短時間勤務者が「20時間超」に該当するかどうかの管理は、
雇用契約書やシフト表で明確にしておくことが重要です。


4. 就業規則の改訂

社会保険加入に伴い、就業規則の内容も見直す必要があります。
加入条件、手続き方法、保険料負担の説明などを明文化することで、
従業員とのトラブルを防ぐことができます。


5. 従業員への丁寧な説明が信頼を生む

社会保険制度の変更は、従業員の手取り額や勤務意識にも影響を与えます。
中小企業では経営者と従業員の距離が近い分、
丁寧な説明と誠実な対応が離職防止・信頼向上につながることを忘れてはいけません。


賃金要件も撤廃へ?今後のさらなる改正動向


厚生労働省は、今後3年以内を目処に「賃金要件(月8.8万円)」も撤廃する方向で検討を進めています。
最低賃金の上昇により、週20時間勤務でも年収106万円を超えるケースが増えており、
実質的に賃金基準が意味をなさなくなってきているためです。

この改正が実現すれば、社会保険加入の判断は**「勤務時間と雇用期間」だけ**で行われるようになり、
より多くのパート・アルバイトが対象に含まれることになります。


中小企業が今から準備すべき3つのポイント


① 労働契約と給与体系の確認

まずは、自社の雇用契約書・シフト・賃金台帳を見直し、
週20時間以上・月額8.8万円以上の従業員が何人いるかを把握します。
これにより、社会保険加入が必要な従業員を事前に洗い出すことが可能です。


② 社内ルールと就業規則の整備

制度改正に合わせて、社会保険に関する社内ルールを再構築します。
「誰が対象になるのか」「いつ加入するのか」「費用はどう負担するのか」を明確にすることで、
従業員との信頼関係を維持できます。


③ 外部専門家の活用

社会保険の適用範囲拡大に伴い、労務・税務の判断が複雑化します。
社労士や税理士に相談し、実務・コスト両面の最適化を図ることが重要です。


まとめ|50人以下の企業も「例外ではない」時代へ

社会保険の適用拡大は、いよいよすべての企業に及ぶ流れとなっています。
これまで対象外だった50人以下の企業も、今後は制度の中心的なプレイヤーとなります。

加入対象者の把握、労働契約の整備、就業規則の改訂、そして従業員への説明――
これらの準備を怠らないことが、将来のトラブル防止と安定経営につながります。

社会保険対応は「コスト」ではなく、「企業信頼の基盤」。
50人以下の企業こそ、早めの対応で“健全な経営体制”を整えることが求められています。