役員報酬は病気によって減額できる?手続き・議事録・損金算入のポイントを徹底解説

はじめに

経営者や取締役が病気や入院によって一時的に職務を遂行できなくなるケースは珍しくありません。
その際、会社として検討するのが「役員報酬の減額」です。

ただし、役員報酬は従業員給与と異なり、自由に変更できるものではなく、会社法と法人税法上の厳格なルールに従う必要があります。
特に注意すべきは、病気を理由とした減額が損金算入できるかどうかという点です。

本記事では、病気・入院を理由に役員報酬を減額する際の法的根拠、税務上の扱い、必要な議事録の作成方法まで、実務で押さえるべきポイントを詳しく解説します。


病気による役員報酬の減額は「定期同額給与」に反しないのか?

法人税法上、役員報酬を損金算入できるためには「定期同額給与」であることが原則です。
つまり、毎月一定額を支給していることが条件となります。

では、病気を理由に一時的に報酬を減額し、回復後に元に戻した場合、この「定期同額給与」の原則に違反しないのでしょうか?

結論から言えば、病気や入院など「やむを得ない事情」があれば臨時改定事由として認められるため、損金算入が可能です。


臨時改定事由とは?

臨時改定事由とは、事業年度の途中で役員報酬を変更しても、税務上認められる特別なケースを指します。
国税庁は、以下のような場合に臨時改定が認められるとしています。

  • 役員の地位や役職に変更があった場合
  • 職務内容が重大に変化した場合
  • これに類するやむを得ない事情が生じた場合

病気によって役員が職務を一時的に遂行できなくなったケースは、この「職務内容の重大な変更」に該当します。
したがって、病気を理由とした減額や、回復後の増額は定期同額給与の例外として認められるのです。


病気による役員報酬の一時的な減額と増額の事例

例として、3月決算の会社で代表取締役が2か月間入院した場合を考えてみましょう。

  • 入院前(4月~8月):月額60万円
  • 入院中(9月~10月):月額20万円に減額
  • 退院後(11月~):月額60万円に復帰

このように、職務不能の間に報酬を一時的に減らし、回復後に元の金額に戻した場合、適正な手続きを踏めば損金算入が可能です。
ただし、その際には「臨時改定事由」であることを証明するための文書や手続きが欠かせません。


役員報酬の減額を認める「3つの主要な理由」

役員報酬を途中で変更することが認められるのは、次の3つのいずれかに該当する場合です。


① 役職や地位に変更があった場合

たとえば、社長が会長に退く、副社長が常務に降格するなど、役職そのものが変更されたときは、報酬変更が合理的と判断されます。
役職の変更に伴い、職務内容や責任の範囲が変わるため、報酬の見直しは自然な経営判断といえます。


② 職務内容に重大な変化があった場合

病気やケガで職務が遂行できない場合、または業務内容が軽減された場合などは、報酬変更が妥当とされます。
この場合は、医師の診断書や療養指示書などを保存しておくことで、税務上の合理性を裏付ける証拠となります。


③ その他、これに類するやむを得ない事情がある場合

会社や役員個人の不祥事、行政処分、社会的制裁などにより、役員報酬を返上または減額するケースもあります。
このような場合も、「やむを得ない事情」として臨時改定事由に該当し、損金算入が認められる可能性があります。


税務上の否認を避けるために必要な書類・手続き

病気による役員報酬の減額を行う場合、以下の3点を必ず押さえておきましょう。


① 臨時株主総会の開催と議事録の作成

役員報酬の金額は株主総会決議によって決まるため、病気を理由に減額する場合も正式な議決が必要です。
取締役会を開催して決議内容を整理し、臨時株主総会で承認を得ましょう。


【議事録に記載すべき項目】

  • 減額の理由(例:病気による職務制限)
  • 減額後の報酬額
  • 減額の適用期間
  • 全会一致で承認された旨
  • 日付、出席者署名、押印

この議事録が税務調査の際、「臨時改定の正当性」を示す証拠となります。


② 医師の診断書・入院証明書などの保存

病気や入院が実際にあったことを裏付ける資料を保存しておくことも重要です。
単なる口頭報告や社内メモでは、税務署が「恣意的な利益操作」と判断するおそれがあります。


③ 報酬回復時の記録も残す

退院後に役員報酬を元に戻す場合も、その理由と時期を明確に記録しましょう。
職務内容が従前と同じであることを示す資料(会議出席記録、決裁書類、経営指示の記録など)を残すことで、税務上の正当性が高まります。


税務上のリスクと注意点

病気を理由に役員報酬を減額・増額する場合、次のような点に注意が必要です。


税務署から否認されるケース

過去には、病気療養中の社長が報酬を一時減額し、その後に回復して報酬を元に戻した際、
「経営復帰の実態が不十分」と判断され、損金算入が否認された事例もあります。

このようなトラブルを防ぐためには、

  • 病気期間中の職務制限の実態
  • 復帰後の業務内容の変化
  • 株主総会での正式承認

といった「事実関係の整備」が不可欠です。


見舞金の支給にも上限がある

役員への見舞金支給も「損金算入できる範囲」があります。
社会通念上、1回あたり5万円程度が妥当とされ、過剰な金額を支給すると給与課税の対象となる場合があります。

また、支給時期が病気から大きく離れていると「実質的には賞与」と見なされることもあるため注意が必要です。


社会保険・税金の実務処理にも注意

病気で長期療養となり報酬を減額した場合、社会保険や税金の取り扱いにも影響が出ます。


傷病手当金の受給条件

健康保険の傷病手当金を受け取るには、「報酬の支払いが停止されていること」が前提です。
報酬が継続して支払われていると、手当金の支給要件を満たさない場合があります。

したがって、長期療養に入る場合は、役員報酬をゼロ円に減額する決議を行うことも検討すべきです。


社会保険料の支払いは継続

報酬をゼロにしても、社会保険加入資格は失われません。
そのため、会社は健康保険料・厚生年金保険料を引き続き負担する必要があります。
病気期間中の保険料を会社が立て替え、回復後に分割回収する対応が一般的です。


住民税・所得税の扱い

報酬がゼロの場合は所得税の源泉徴収は不要ですが、住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、前年の高報酬分の住民税支払い義務は残ります。
会社が一時的に立て替え、後に報酬から相殺するなど、支払い方法を工夫しましょう。


まとめ:病気による役員報酬の減額は「手続きと証拠」が命

病気を理由とした役員報酬の減額は、法人税法上「臨時改定事由」に該当すれば損金算入が認められます。
しかし、それを証明するためには以下の要件を満たす必要があります。

  • 臨時株主総会の開催と議事録の作成
  • 医師の診断書などの客観的証拠の保存
  • 減額・増額の理由と時期の明確化

これらを怠ると、たとえ病気が事実であっても「恣意的な利益操作」と見なされ、損金算入が否認されるリスクがあります。

病気や入院による報酬減額は、感情的には当然の措置であっても、税務上は厳密な手続きと合理的説明が求められます。
議事録や証拠書類を整え、透明性のある判断を下すことが、企業の信頼と税務リスク回避につながります。