はじめに
会社の業績が好調なときや経営環境が悪化したときに、役員報酬を見直したいと思う経営者は多いでしょう。
しかし、役員報酬の変更には会社法と法人税法の両方で定められた厳格なルールがあり、
手続きを誤ると「損金算入が認められない=法人税が増える」といったリスクを招くことがあります。
本記事では、役員報酬の変更が可能なタイミング、正しい手順、注意点を実務レベルでわかりやすく解説します。
これから役員報酬を見直す予定の経営者は、ぜひ参考にしてください。
役員報酬の変更は自由にできる?
役員報酬は、従業員の給与のように随時変更できるものではありません。
その理由は、自由に変更できてしまうと「利益調整(節税目的)」が容易になってしまうため、
税務署は役員報酬を経費(損金)として認めない場合があるからです。
したがって、役員報酬を変更する際は、法律で定められた手続きと期限を守る必要があります。
定期同額給与の変更には期限がある
法人税法上、役員報酬を損金に算入するためには「定期同額給与」として扱われることが条件です。
この「定期同額給与」を変更できるのは、原則として事業年度開始から3か月以内です。
例えば、4月決算の会社であれば、
新年度(5月1日)から数えて7月末までに株主総会を開き、
役員報酬の変更を決議しなければなりません。
この3か月を過ぎて金額を変更すると、
変更後の支給額は損金算入が認められず、法人税の課税対象となる点に注意が必要です。
役員報酬を変更する主なケース
役員報酬の変更には、増額・減額の両方のパターンがあります。
以下は代表的なケースです。
- 増額の場合:業績向上、経営目標の達成、昇格、家族構成の変化など
- 減額の場合:業績悪化、資金繰りの悪化、降格、不祥事対応など
どのような理由であっても、正式な決議と記録(議事録)が必要です。
手続きを省略して変更すると、税務上の損金として認められないおそれがあります。
役員報酬の変更ができる3つのタイミング
役員報酬の変更は、原則「期首から3か月以内」にしか損金算入できませんが、
例外的に、それ以降でも認められるケースがあります。
① 新任・退任があったとき
事業年度の途中で新たに役員が就任した場合、
期首から3か月を過ぎていても、その役員分の報酬設定は認められます。
また、既存の役員が退任した場合は、その退任を理由に報酬を減額・停止することも可能です。
新旧役員の就退任に伴う報酬変更は、実態として合理性があると判断されます。
② 昇格・降格があったとき
副社長が社長に昇格した、または専務が常務に降格したなど、
役職や責任範囲が大きく変わった場合は、報酬の変更が合理的な理由として認められます。
たとえば、社長昇格に伴い役員報酬を50万円から80万円に増額する場合などは、
期首3か月を過ぎていても損金算入の対象となります。
ただし、変更理由を明確に議事録へ記録しておくことが重要です。
③ 会社の業績が大幅に悪化したとき
会社の業績が大きく落ち込んだ場合も、例外的に報酬の減額が認められます。
ただし、単なる軽微な減益では認められません。
「大幅な赤字転落」「継続的な売上減少」「金融機関との協議を伴う再建策」など、
明確な経営悪化の証拠が必要です。
一時的な調整目的の減額は、税務上の合理性を欠くため注意しましょう。
役員報酬の変更手続きの流れ
役員報酬の変更は、会社法と法人税法の両方に適合する形で行う必要があります。
以下では、実務で必要となる手順を順を追って整理します。
① 変更金額を決定する
まずは、変更後の金額を正式に決定します。
増額・減額いずれの場合も、「株主総会の普通決議」によって承認される必要があります。
変更しない場合でも、「報酬額を据え置く」という決議を行い、その内容を議事録に残します。
この記録がないと、後から税務署に「実態不明」と判断される可能性があります。
② 株主総会の招集通知を発送
株主総会を開催する場合は、原則2週間前までに株主へ招集通知を送付します。
通知には、開催日時・場所・議案(役員報酬の変更内容)などを明記します。
同族会社などで全株主が常勤役員の場合、
書面省略・口頭合意も認められますが、
可能な限り書面通知を行い、文書記録を残すことが望ましいです。
③ 株主総会を開催し、報酬変更を決議
株主総会で正式に議案を審議し、報酬変更を決議します。
普通決議で可決されれば有効です。
ここで重要なのは、決議日と変更日を明確に区別しておくこと。
支給開始日(変更適用日)は議事録にも明記しておきましょう。
④ 株主総会議事録を作成・保管
株主総会での決議内容は、議事録に正確に記録し10年間保管します。
この議事録は、税務調査時に「正式な承認手続きが行われた証拠」として提示を求められる場合があります。
役員報酬の金額、決議日、適用日、理由などを具体的に記載しておくと信頼性が高まります。
⑤ 取締役会を開催(取締役3名以上の会社)
取締役が3名以上いる会社では、株主総会の前に取締役会を開催する義務があります。
この場で、以下のような議題を決議し、議事録を残します。
- 株主総会の招集決議
- 利益相反取引・競業取引の承認
- 役員報酬の変更案の承認
これらを経たうえで、株主総会に諮るのが正しい流れです。
役員報酬変更時の2つの注意点
役員報酬の変更には、税法上と会社法上の2つの注意点があります。
注意点①:3か月以内に変更を完了させる
定期同額給与として損金算入するためには、事業年度開始から3か月以内に手続きを完了させる必要があります。
この期限を過ぎると、変更後の金額は経費として認められません。
例えば、3月決算の会社では、新年度(4月1日)から6月末までに株主総会を開催し、
7月支給分から新報酬を反映させるのが一般的な流れです。
注意点②:議事録の日付と決算確定日の整合性
会社法上、株主総会議事録の日付と決算確定日は一致していなければなりません。
決算確定前に議事録の日付が先行していると、
「実際の承認より前に手続きした」と見なされ、損金算入が否認されるリスクがあります。
また、取締役会設置会社では、株主総会議事録と取締役会議事録の両方を整備し、
それぞれの開催日・承認内容・署名を明確に残すことが求められます。
まとめ
役員報酬の変更は、単なる金額調整ではなく、法的手続きを伴う経営判断です。
事業年度開始3か月以内に株主総会を開き、議事録を整備しておくことで、
税務署からも「適正な手続き」と認められます。
ただし、期中であっても就任・退任、昇格、業績悪化など合理的な理由がある場合には、
変更が認められるケースもあります。
重要なのは、「なぜ」「いつ」「どのように」変更したかを明確に記録に残すこと。
これにより、税務上のトラブルを防ぎ、会社の信頼性とガバナンスの健全性を守ることができます。
役員報酬は、経営の方向性と税務の両方に影響する重大な要素です。
専門家と相談しながら、会社の実情に合った適正な変更を行いましょう。







