はじめに
パソコンやプリンター、オフィスチェアなど、事業で使用する設備や備品を購入した際、
「この支出は経費にしてよいのか」「減価償却が必要なのか」で迷う経営者は少なくありません。
特に中小企業では、少額減価償却資産の特例を上手に活用することで、大きな節税効果が得られます。
一方で、適用要件を誤ると税務上のミスにつながるおそれもあります。
本記事では、「少額減価償却資産とは何か」から「経費計上の具体的ルール」「中小企業向け特例の使い方」まで、
税務実務に即してわかりやすく解説します。
少額減価償却資産とは?
少額減価償却資産とは、取得価額が一定金額以下の固定資産で、税法上、通常の減価償却をせずに一括で経費処理できる資産を指します。
具体的には、以下のような資産が該当します。
- 事務用パソコン・モニター
- コピー機・プリンター
- デスク・椅子
- 工具・器具・什器
- タブレット端末・スマートフォン(業務利用分)
これらは本来、「固定資産」として耐用年数に応じて少しずつ費用化(減価償却)しますが、
金額が小さい場合は「少額減価償却資産」として一括経費処理が認められる場合があります。
減価償却とは?
まず前提として、減価償却とは「長期間使用する資産の価値を、使用期間に応じて費用化する」会計処理のことです。
例えば、10万円のパソコンを5年使う場合、1年あたり2万円ずつ費用計上するのが基本ルールです。
しかし、中小企業や個人事業主にとっては、少額の設備購入をいちいち数年に分けて処理するのは煩雑です。
そこで税法上、一定金額までは一括で経費処理を認める特例が設けられています。
少額減価償却資産に関する3つのルール
税務上、「少額減価償却資産」として扱うかどうかは、取得価額と法人の区分によって異なります。
ここでは、3つの代表的なルールを整理しておきましょう。
【ルール①】10万円未満の資産は即時経費処理
取得価額が10万円未満の資産は、資本金や規模にかかわらず、
購入時に全額を経費(消耗品費など)として処理可能です。
たとえば、8万円のノートパソコンや5万円の椅子を購入した場合、
「減価償却」を行うことなく、その年度の経費に計上できます。
これはすべての企業に共通するルールで、最もシンプルなケースです。
【ルール②】20万円未満は一括償却資産として3年均等償却
取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、「一括償却資産」として処理できます。
これは「減価償却資産」に該当しますが、通常の耐用年数に関係なく3年間で均等償却できます。
例:18万円のオフィスデスクを購入した場合
→ 18万円 ÷ 3年 = 各年度6万円ずつ経費計上
この方法は「即時経費にはできないが、通常より早く費用化できる」点がメリットです。
【ルール③】30万円未満は「中小企業者等の特例」で即時経費可能
中小企業・個人事業主にとって最も重要なのが、30万円未満の資産を全額経費処理できる特例です。
これは「中小企業者等の少額減価償却資産の特例」と呼ばれ、青色申告を行っている中小法人または個人事業主が対象です。
適用条件
- 資本金1億円以下の法人、または青色申告者
- 取得価額30万円未満の資産(1単位あたり)
- 年間合計額300万円まで
例:1台25万円のノートPCを購入 → 全額をその年の経費にできる
この特例を使えば、通常なら数年間に分けてしか落とせない資産をその年の経費として一括処理でき、
資金繰りの観点からも非常に有利です。
中小企業者等の特例を使うメリット
即時経費でキャッシュフローを改善
購入した年度に一括で経費処理できるため、税負担を翌期以降に繰り延べできます。
たとえば、利益が出た年に設備を購入し、30万円未満であればその年に費用化できるため、
法人税の支払いを抑える=キャッシュを手元に残せるという効果があります。
決算対策としての柔軟な活用
決算間際に利益が出すぎた場合、
パソコン・備品・工具などの購入を行うことで、経費を計上し税金をコントロールすることが可能です。
ただし、「節税目的の過剰購入」は注意が必要です。
実際に事業で使用することが前提であり、未使用や倉庫保管のままでは経費として認められません。
手続きが簡単
この特例の適用にあたり、税務署への事前届出は不要です。
通常の固定資産台帳に「少額減価償却資産」と明記して管理すれば十分です。
ただし、青色申告書を提出していることが前提条件となる点に注意しましょう。
特例の注意点とよくある誤り
便利な特例ですが、誤用すると税務調査で指摘を受けるリスクもあります。
以下のポイントを必ず押さえておきましょう。
① 年間合計300万円の上限に注意
30万円未満の資産をいくらでも即時経費化できるわけではありません。
1年間で合計300万円までという上限が設けられています。
例えば、25万円の資産を13件購入(25万円×13=325万円)した場合、
超過分(25万円分)は通常の減価償却資産として扱われます。
② 複数台購入の合算に注意
同一種類の設備を複数台購入した場合、1台ごとに判断します。
例:20万円のパソコンを5台購入した場合(合計100万円)
→ 各1台が20万円未満なので、特例適用OK。
「合計で100万円だから対象外」ではありません。
③ リース・中古資産も対象
中古資産やリース資産(買取前提リース)も対象となる場合があります。
ただし、リース契約の内容によっては、資産ではなくリース料処理になることもあるため、契約書を確認しましょう。
④ 一括償却資産との混同に注意
20万円未満の資産は「一括償却資産」として3年で償却できますが、
中小企業者等であれば、30万円未満でも即時経費化が可能です。
つまり、「10万円以上30万円未満」の範囲では、
「どちらの処理を選ぶか」で会計処理が異なる点を覚えておきましょう。
実務上の処理方法(仕訳例)
実際に少額減価償却資産を購入した場合の会計処理は以下の通りです。
例1:取得価額が10万円未満の場合
10万円未満のモニター(8万円)を現金購入した場合
借方:消耗品費 80,000円
貸方:現金 80,000円
摘要:モニター購入
→ 当年度の経費として即時処理。
例2:取得価額が25万円(特例適用)の場合
25万円のパソコンを購入(青色申告法人)
借方:少額減価償却資産 250,000円
貸方:普通預金 250,000円
摘要:ノートPC購入(中小企業特例適用)
→ 「少額減価償却資産」としてその年度に全額経費処理。
例3:取得価額が18万円(通常処理)の場合
18万円のデスクを購入(特例対象外の場合)
借方:一括償却資産 180,000円
貸方:現金 180,000円
摘要:オフィスデスク購入(3年均等償却)
→ 翌期以降、3年間にわたって各年度6万円ずつ償却。
よくある質問(FAQ)
Q1:この特例はいつまで使える?
現行の制度では、2025年3月31日まで適用延長が決定しています(中小企業経営強化税制の一部として継続)。
その後も延長される可能性は高いですが、年度ごとに税制改正を確認する必要があります。
Q2:中古のパソコンや備品でも使える?
はい、中古資産でも30万円未満なら適用可能です。
新品・中古の区別はなく、「取得価額」で判定されます。
Q3:30万円を1円でも超えるとどうなる?
30万1円でも特例対象外となり、通常の減価償却処理が必要です。
購入前に見積書で金額を確認し、30万円を超えないよう調整するのが実務上のポイントです。
まとめ
少額減価償却資産の特例は、中小企業にとって非常に有効な節税手段です。
特に「30万円未満・年間300万円以内」という範囲をうまく活用することで、
決算対策やキャッシュフロー改善に直結します。
ただし、対象金額や上限を超えると適用外となるため、購入前の計画的な判断が重要です。
税理士と相談しながら、特例の適用可否を確認しておくと安心でしょう。
経費計上の正しい知識を持つことで、無駄な税負担を減らし、より健全な経営を実現できます。
ぜひこの制度をうまく活用し、会社の資金を賢く守っていきましょう。







