企業経営において役員報酬は重要な要素の一つですが、その取り扱い方次第で法人税負担が大きく変わることがあります。特に、経費(損金)として計上できない役員報酬は、会社の納税額に直接影響を与えるため、適切な対策を講じることが不可欠です。そこで注目されるのが「事前確定届出給与」という制度です。本記事では、この制度の概要から具体的な手続き方法、活用による節税効果まで、詳しく解説します。
事前確定届出給与とは?
事前確定届出給与とは、役員に対して所定の時期に確定した金額を支払う旨を定め、事前に税務署に届出を行うことで、その報酬を損金算入できる制度です。通常、役員報酬は、従業員の給与と異なり、一定の条件を満たさなければ損金として計上することができません。しかし、この制度を利用することで、役員賞与も経費として計上することが可能になります。
例えば、通常の役員賞与はそのままでは損金として認められませんが、事前に税務署へ届出を行い、決まった日に決まった金額を支給することで、法人税の計算上、損金に含めることができるのです。これにより、企業の納税額を抑え、資金繰りの改善にもつながることがあります。
事前確定届出給与の具体的なメリット
- 法人税負担の軽減: 役員報酬を損金として計上できるため、法人税の負担を軽減することができます。特に、役員報酬が高額な場合、その節税効果は非常に大きくなります。損金に含めることで、利益が減少し、結果として納税額を減らすことができるのです。
- 社会保険料の節約: 事前確定届出給与は、年に3回まで支給する場合、社会保険上は「賞与」として扱われます。これにより、標準報酬月額ではなく標準賞与額が適用されるため、社会保険料の負担を軽減することが可能です。特に、高額な報酬を支給する場合には、この制度を活用することで、会社全体の保険料負担を大幅に抑えることができます。
- 報酬設計の柔軟性: 事前確定届出給与は、定期同額給与と併用することが可能です。これにより、企業は報酬設計において柔軟性を持たせることができます。例えば、通常の月給部分を定期同額給与とし、ボーナス部分を事前確定届出給与として届け出ることで、経費処理や税務上のメリットを最大限に引き出すことが可能です。
事前確定届出給与の手続き方法
手続き方法:
- 株主総会での決議: まず、役員報酬の支給日と支給金額を株主総会で決議し、その議事録を作成します。この議事録が、税務署への届出書とともに提出される重要な証拠書類となります。
- 税務署への届出: 次に、株主総会で決議された内容をもとに「事前確定届出給与に関する届出書」を作成し、税務署に提出します。この届出書には、支給日と支給金額を1円単位で正確に記載する必要があり、曖昧な記述は認められません。また、支給日や支給金額が少しでも届出内容と異なると、その報酬は全額が損金不算入となってしまうため、慎重に作成することが求められます。
事前確定届出給与の届出期限と変更手続きについて
事前確定届出給与を適用するためには、定められた期限内に税務署に届出を行う必要があります。届出期限は、会社の設立時期や役員報酬の決定方法などによって異なります。以下に具体的な提出期限を説明します。
- 新設法人の場合
新しく会社を設立した際に役員の職務が定められている場合、設立日から2ヶ月以内に届出を行う必要があります。この期限を過ぎると、事前確定届出給与を損金算入することができなくなるため、注意が必要です。 - 株主総会や社員総会での決議による場合
株主総会や社員総会などで、役員報酬の支給時期と金額を定めた場合、以下の2つのうち、早い方の日から1ヶ月以内に届出を行う必要があります。- 決議日: 株主総会や社員総会で事前確定届出給与を決定した日。
- 職務開始日: 役員が職務を開始する日。
- 臨時改定事由による変更の場合
役員の職制上の地位や職務内容に重大な変更があった場合(臨時改定事由)、もしくは会社の経営状態が著しく悪化した場合(業績悪化改定事由)、事前確定届出給与の金額を変更することが認められています。この場合、以下のいずれか遅い日から1ヶ月以内に変更届出書を提出する必要があります。- 初回の届出期限: 株主総会や職務開始日など、最初に届出を行った際の期限。
- 臨時改定事由発生日: 臨時改定事由が発生した日から1ヶ月以内。
ただし、業績悪化による改定は、一時的な赤字や資金繰りの悪化では認められないことが多く、手続きには慎重さが求められます。新型コロナウイルス感染症の影響や重大な不祥事による行政処分など、特別な状況に限られることが多いです。
変更手続きの注意点
届出内容の変更は可能ですが、頻繁に変更すると税務署から指摘を受ける可能性があります。また、変更手続きを怠ったまま支給金額を変更すると、その報酬全額が損金不算入となるため、必ず所定の手続きを守ることが重要です。臨時改定事由や業績悪化改定事由による変更の場合も、変更手続きを忘れず、期日を守って届け出を行いましょう。
事前確定届出給与の注意点
届出内容の厳守:
- 届出内容通りに支給されないと、損金不算入となるため、届出書に記載した内容は必ず守る必要があります。たとえば、届出時に支給金額を50万円としたのに、実際には70万円を支給した場合、その70万円全額が損金不算入とされてしまいます。逆に、50万円より少ない金額を支給した場合も同様です。
業績変動への対応:
- 事前確定届出給与の届出後に業績が悪化し、予定通りの金額を支給することが困難になった場合、その報酬は全額損金不算入となるリスクがあります。例えば、予定していた売上が達成できず、資金繰りが厳しくなった場合、約束された報酬を支払うことでさらに会社の財務状況が悪化する可能性もあるため、事前に十分な計画が必要です。
定期同額給与や業績連動給与との違い
定期同額給与とは、役員に対して毎月同額で支給される報酬のことです。この場合、事前に税務署への届出は必要ありませんが、報酬額の変更は原則として年に1回のみ可能です。また、支給金額や時期に変更があると損金算入が認められないため、事前確定届出給与と同様に注意が必要です。
業績連動給与とは、会社の業績に応じて報酬額が変動する制度です。金額が事前に確定していないため、役員の業績に応じたインセンティブとして利用されます。この制度を利用するには、所定の指標に基づいて報酬額を算定し、有価証券報告書に記載する必要があるため、株式公開していない非上場企業では適用できません。
事前確定届出給与の変更方法
臨時改定事由:
- 役員の職制上の地位の変更や、職務の重大な変更があった場合には、事前確定届出給与の内容を変更することが可能です。この場合、税務署に「事前確定届出給与に関する変更届出書」を提出する必要があります。変更届出は、事由が発生してから1ヶ月以内に行うことが求められます。
業績悪化改定事由:
- 会社の経営状態が著しく悪化した場合には、事前確定届出給与の変更が認められることがあります。ただし、一時的な赤字や軽微な資金繰りの悪化では変更が認められないことも多いため、実際に変更を行う際には慎重な判断が求められます。変更を忘れると、全額が損金不算入となる可能性があるため、注意が必要です。
まとめ:事前確定届出給与を活用した効果的な節税戦略
事前確定届出給与を正しく活用すれば、役員賞与を損金として計上し、法人税の負担を大幅に軽減することが可能です。ただし、手続きには厳格なルールがあり、届出内容や期限を厳守する必要があります。届出後に業績が変動する場合など、事前に十分な計画を立てておくことが重要です。
また、定期同額給与や業績連動給与との併用により、さらに効果的な税務戦略を構築することが可能です。これらの制度を組み合わせて、企業の財務健全性を高めるとともに、役員報酬の最適な設計を目指しましょう。従業員だけでなく、役員報酬の損金算入を通じて、会社全体の税務対策を強化し、健全な経営をサポートすることができます。
企業経営者として、事前確定届出給与を含む役員報酬の取り扱いについて正しく理解し、節税対策を講じることは非常に重要です。会社の利益を最大限に引き出すために、ぜひこの制度を活用してください。







